地域の学び舎「プラット」活動報告会レポート(2021年3月13日開催)「DIY、大赤字からスタートした学習支援やカフェ、時々シェルター 〜暮らしを豊かにする地域コミュニティの可能性~」

 





 千葉県市川市の閑静な住宅地に佇む一軒の古民家。ここにNPO法人ダイバーシティ工房が運営する地域の学び舎「プラット」が正式オープンしたのは、2017年8月のこと。学習塾や発達障害がある子どもたちへの支援、保育、シェルターや自立援助ホーム事業などを展開していくなかで、「どうしたら本当に困っている子どもたちと出会えるのか」と考えたときに、生活の近くに「いつでもぷらっと立ち寄れる」場があることの必要性を感じてつくったのが「プラット」でした。

 オープン以来、小中学生を対象とした食事つき無料学習教室、コミュニティカフェ、地域のイベントスペース、そして時には一時的に逃げ場所が必要な子どもたちの宿泊場所として、さまざまな役割を担ってきました。しかし、2020年度はコロナ禍によって「プラット」が大事にしてきた“場を介しての交流”が難しくなり、模索の中での運営が続いています。

 3月13日にオンラインで開催されたプラットの活動報告会では、コロナ禍のなかでの運営状況を共有したうえで、withコロナの時代における地域コミュニティが果たす役割について、3名のゲストによるトークを行いました。その内容の一部を紹介します。


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【プラット活動報告】

臨時休校で見えてきた子どもたちの姿

 まずは、2020年度の学習教室の状況について、スタッフの宮坂奏子さんから報告がありました。

 プラットでは主に中学生を対象とした無料学習教室を、毎週月・金曜の18時~20時半に開いています。現在の参加者は毎週約18名。なかでも多いのは受験を控えた中学3年生です。プラットの大きな特徴は、半数近くが親や相談機関などを介さずに参加していること。利用の条件が柔軟で、親との手続きを必要としないため、「友達が友達をつれてくる」といった形で参加する子どもが全体の約27%を占めています。

 2020年2月末、市川市ではコロナの感染拡大を受けて市内小中学校などが臨時休校となりました。それに伴いプラットの学習教室もいったん休止。休止中は、初めての試みとしてオンラインでの学習教室を開催しました。

 「経済的な理由で塾に行くことができなかったり、家庭環境が複雑だったり、とくに心配な子どもたちを中心にこちらから声をかけて、マンツーマンでのオンライン学習の利用を促す形で行いました」と宮坂さん。

 学校再開にあわせて、5月末には学習教室も再開。 コロナの感染拡大を防ぐために、人数制限を設けて時間入れ替え制にし、食事の提供を中止してお弁当を無料配布するなどの工夫をしました。7月には、それまで週1回だった開催を2回に増やして参加人数を分散。食事の調理も一度は再開しましたが、2021年になり再び緊急事態宣言が出てからはお弁当の配布に戻し、希望者には家族全員分のお弁当を渡しています。

 「子どもたちからは、給食がないので野菜が食べられない、家にWi-Fi環境がなくオンライン授業が受けられないといった声も聞こえてきました」。休校中だからこそ見えてきた子どもたちの姿があったと宮坂さんは話します。一方で、学習教室への定着率が高まり、学習に向かう姿勢が前向きになるなどの変化もあったといいます。

 「教室を再開すると全員が戻ってきてくれました。一斉休校で授業がなく、経済的な事情で一般の塾には通えないこともわかっているため、『プラットで頑張るしかない』という気持ちがあったのだと思います。一生懸命に質問したり、受験に向けて面接対策を頑張ったりする姿が、今年はとくに印象的でした。それから、終わりの時間になっても周りと話していて、なかなか家に帰りたがらない姿も見られました」(宮坂さん)


「おむすびプロジェクト」の始動

 2020年度は定時制高校生の生徒たちとの出会いもありました。松戸市にある子ども食堂のスタッフから「生徒たちの様子を心配している定時制高校の先生がいるが、うちでは継続的な支援が難しい」という相談を受けて、11月から始まったのが「おむすびプロジェクト」です。

 先生によれば定時制高校には給食がなく、困窮世帯の子どもも多いため、空腹の状態で授業を受けている生徒がいるということでした。そこでプラットでは、授業前に食事ができるように、毎月第1・3金曜日に、コンビニの駐車場を借りて食材配布を開始。大学生インターンやボランティアがつくったおにぎりのほか、レトルト食品なども渡しています。このプロジェクトを始めてから、次第に生徒さんの表情も変わり、先生との関係性もよくなっていったそうです。こうした食の支援も、今後プラットで力をいれていきたい活動のひとつです。

 また、コミュニティカフェの活動については、スタッフの長谷川綾子さんから報告がありました。プラットでは、地域の方々がボランティアでオーナーとなり、「産前産後ママのためのカフェ」や「介護家族のためのミニ相談会」など、さまざまな企画のカフェが運営されています。緊急事態宣言中は、カフェを一時中止にせざるを得ませんでしたが、代わりにオンラインサロンを計14回開催しました。

 6月~12月には、感染予防のため午前と午後に分け、各回3組限定と規模を縮小しながらカフェを再開。育児不安や人間関係で悩んでいるお母さんたちの姿も見られたと言います。深刻なケースに対しては、外部の相談支援機関につないだこともありました。

 「オンラインサロンを開催したときに、『家族以外の人と2週間ぶりにしゃべったよ』というお母さんがいて、すごくショックでした。家にこもらなければいけない状況ですが、家族としか話せない状況が続くとストレスがたまるのではないでしょうか」と長谷川さん。リアルで会うことが難しいなか、孤立しがちなお母さんたちの様子は気がかりです。

 コロナの影響を大きく受けた2020年度でしたが、プラットカフェの開催は計58回(うちオンラインサロン14回)、オンラインを含めて計297名が参加しました。



【ゲストトーク】

地域コミュニティが果たす役割とは?

  続いては、それぞれの現場で地域コミュニティにかかわる実践を行う3名を迎えてのゲストトークです。「withコロナの時代において、孤立や貧困を超えて豊かな暮らしづくりのために地域コミュニティが果たす役割とは?」をメインテーマに語っていただきました。

 トップバッターは、NPO法人さいたまユースサポートネットの代表理事で、居場所づくりや学習教室運営、就労支援など幅広い事業を展開されている青砥恭さん。青砥さんは、コロナ禍によって学校でもオンライン授業などが増えていることに触れ、「声が聞こえて顔が見えても、やはりオンラインには肌感覚がありません。人間は共同で何かをつくりあげるとか教え合うとか、衝突も含めた関係性のなかで育っていくものです。いま、その原点をどう考えていったらいいのかという課題は非常に大きい」と指摘。そのうえで、あらためて地域コミュニティが果たす役割の大切さを感じていると話しました。

 「日本社会で最大の問題は『縦割り』。よく言われていることですが、福祉と教育は分断されています。いま私たちは地域協働モデルの構築を始めているところですが、本来の権利主体である市民が行政や学校を巻き込みながら、貧困や人口減少といった社会課題に向き合える地域を再生していく必要があると思います」(青砥さん)

 上智大学の経済学部教授であり、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を専門に、豊かな人間関係を社会にどう復活させていくのかを研究している川西諭さんは、「SNSコミュニティなど、地域以外にもコミュニティの概念は広がってきていますが、一緒に喜び、一緒に悲しめて、お互いに仲間だと思える人たちの集まりが『コミュニティ』だと言えるのではないでしょうか」と話します。

 さらに、ご自身で多世代型シェアハウス「みかんハウス」を運営している経験から、「最初のうちは入居者同士、細かいことで不満がたまり大家のもとに文句がやってきますが、子どもの面倒を見てもらうなど『お互いさま』の関係ができてくると、気を付けてほしいことを自然に伝えられて、許し合えるようになっていく。そうすると大家の出番はなくなるんですよ」と実際のエピソードを例にあげながら、コミュニティのあり方のヒントを投げかけました。


身近なつながりからバトンをつなぐ

 ここまでのお二人の話を受けて、千葉県が設置する中核地域生活支援センターがじゅまる・センター長の朝比奈ミカさんも、「縦割り」と「コミュニティ」についてご自身の経験をシェアしてくれました。朝比奈さんは地域で17年近く相談支援にかかわり、「いちかわ うらやす 若者サポートプロジェクト」(通称「678」)という、地域の支援機関や学校の先生、ソーシャルワーカーなど、さまざまな関係者が束になって16~18歳の子どもたちを支える活動にも取り組んでいます。  「行政職員や学校の先生であっても、『親戚に障害を抱えた人がいます』とか『実は、子どもが不登校になった時期があるんです』など、その人の生活当事者としての顔が何かを機に出てくることがあり、そこから分野を超えた連携が一気に広がる経験をしてきました。困難を抱えた当事者がいて『この人のために何ができるか?』ということが、縦割りを超えて担当部署や学校を動かしていくのだと感じています」と朝比奈さん。そして、そういう機をとらえていくことが、地域の社会資源をコーディネートする役割の人間には必要ではないかと話します。

 また、公的相談機関にアクセスできない人たちがいることに触れ、地域やSNS空間なども含めた身近なコミュニティのなかで相談者と信頼関係を築いてきた人たちが間にはいり、専門の相談機関にバトンを渡すようにつないでいく――そんな「つながり」をつくる必要性をコロナ禍のなかで改めて感じていると言います。

 このお話に対して、プラットのスタッフ・長谷川さんも、カフェに来ていた複雑な家庭事情を抱えたお母さんを朝比奈さんのかかわる相談機関につないだ事例を紹介しました。  「その方はプラットカフェを通じて私との関係性ができていたので、相談支援機関の方ともすんなりと会って話してくれました。そうでなければ、自分から相談に行くことはなかったのではないかと思います。暮らしのなかで関係性を築いてきたことで、外部の相談支援機関にバトンをつなぐことができた。これが地域コミュニティの価値だと感じた瞬間でした」(長谷川さん)


「原点となる出会い」があること

 この活動報告会には、実際に地域でコミュニティを作る活動をされている方、これから始めたいという方もオンラインで多数参加されていました。そこで、ゲストの3名に、それぞれのご活動を続けるなかで大事にしているポイントもうかがいました。

 青砥さんからの回答は「団体の若いスタッフ、つまり若い人たちがこれからどういう社会をつくっていきたいのかを応援すること」。川西さんは、何か活動を始めたいという学生にしているアドバイスとして「ひとりではなく仲間を3人見つけ、無理なく楽しく続けること」を挙げてくれました。

 また、朝比奈さんからは、現場のチームを組むときには年代や性別、興味関心や背景などが多様な人たちが集まるように意識しているという具体的な話もありました。

 「相談支援の現場では、偏見の排除や受容的な態度が求められますが、自分ひとりの範囲だけで考えていると偏りや排除に気づきにくいもの。ですから、チーム自体が多様性をもつことが大事だと思っています。また、地域の方から事業立ち上げの相談を受けることもあるのですが、『空腹の子どもがいるだろうから子ども食堂をやりたい』という一般論で始めると『なかなか子どもと出会えない』という話になりやすい。それよりも『この子どものことが気になって』という原点になる出会いを持つ方のほうが、活動が続いていく印象があります」(朝比奈さん)

 「原点になる出会いがあること」。それはプラットでカフェを始めた地域の方たちにも共通して言えることだと、長谷川さんもうなずきます。


「底が抜けた」社会を変えていく

 この他にもさまざまな話が飛び交ったゲストトークでしたが、最後は「withコロナの時代において、孤立や貧困を超えて豊かな暮らしづくりのために地域コミュニティが果たす役割とは?」というメインテーマへの問いに答えていただき締めくくりました。

 「これから地域社会の果たす役割はすごく大きい」と答えたのは青砥さん。「人口減少が進む社会では、貧困層は貧困層、中間層は中間層というように住む地域も分かれていく気がしています。しかし、一番大事なのは多様性。人間は異質な存在があつまることによって発達します。同質性の社会のなかでは排除しか生まないのは、学校教育が証明していること。異質な人たちが集い、語り合い、いろいろなお祭りがつくられるような、多様な地域社会形成に挑戦したいと思っています」(青砥さん)

 川西さんは「よく防災のためには地域コミュニティが大事だといわれますが、防災のために仲良くするというのも変なこと。自分にとって地域の人たちが大切だから、災害のときにも助けないではいられないというのが本来の形だと思います。そして、そういう地域に住めるのは幸せで大切なことなのだと、僕らは子どもたちにも伝えていかなくちゃいけない」と結びます。

 そして最後に朝比奈さんは、昨年からコロナの影響で困窮者支援窓口に多くの方々が相談に来ており、「社会の底がぬけた」ような印象を受けていると話します。

「こうした状況がコロナの前のように戻るのかと言うと、戻らないのではないでしょうか。最近では、『孤立』は貧困や病気と同様に生活リスクのひとつだと言われています。実は社会的な関係を築くことのほうが、100万円の貯金を持っているよりも意味のあることかもしれない。お二人も仰っていたように、多様性や地域のつながりのある社会にしていくことが、この状況の打開につながるのではないかと感じています」(朝比奈さん)


【編集・ライティング:中村未絵】


(登壇者プロフィール)

青砥恭 氏(一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 代表理事、非営利活動法人 さいたまユースサポートネット 代表理事) 埼玉県で県立高校の教諭として20年間働いた後、関東学院大学、埼玉大学、明治大学などで講師を務める(教育学、教育社会学、教育法学)。「子ども・若者の貧困と格差」を教育と持続的な地域づくりという視点から研究。2011年に特定非営利活動法人さいたまユースサポートネットを設立。その後、さいたま市で学習支援、居場所づくり、就労支援など若者たちの包括的支援のネットワークと地域拠点をつくる活動をしている。

朝比奈ミカ 氏(中核地域生活支援センターがじゅまる センター長) 大学卒業後、東京都社会福祉協議会に就職。高齢者の就労・生活相談業務を経て、福祉全般にわたる調査研究、広報啓発、研修企画業務等に携わる。2004年から千葉県が設置した包括的相談支援事業「中核地域生活支援センター」の一つ、「がじゅまる」の創設に携わり、仲間とともに手探りで対象を限定しない相談活動の実践に取り組む。2015年から市川市生活困窮者自立支援事業「市川市生活サポートセンターそら」主任相談支援員を兼務。

川西諭 氏(上智大学経済学部教授、みかんハウスオーナー) 上智大学経済学部教授。経済学博士。主な研究分野はゲーム理論と行動経済学を応用した経済社会分析。現在は、地域や企業内における人間関係が経済活動に与える影響を多面的に分析し、理想的な人間関係を実現するための介入方法などについて研究している。多世代向けシェアハウス「みかんハウス」オーナー。




◆本イベントで報告されている内容をまとめた「地域の学び舎プラット活動報告集2020」をお読みいただけます。

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